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ドラマチックな色決めの話⓷最終回

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 私のありえない発注ミスで、大切なお客様の家をピンク色の 「ラ〇ホテル」 にしてしまいました。             その日の夜、私は改めてFさんの家にお詫びに行きました。 Fさんの 「色」 に対するこだわりはよくわかっていたので、本当に許されないミスをしたのだと自覚がありました。 Fさんの家に着いたときは、もうすっかり暗くなっていました。ピンク色に塗られた壁も、闇が隠していてわかりませんでした。 しかし、近づいてよく見ると、やっぱりFさんの家はピンク色なのでした。 Fさんの玄関のチャイムを鳴らすときは、もう本当にFさんが怖くて怖くて、もう 「この世の終わり」 くらいに思っていたのです。 しかし、ドアを開けてくれたFさんは、以外にも寛大に私を迎えてくれました。 私はとにかく正直に、ありのままを話そうと思いました。 こうしたとき、少しでも言い訳めいたことを話せば、それは相手に必ず悪い印象として伝わってしまうものだと知っていたからです。 私が塗装業者に色を伝えるときに、違う番号を伝えてしまったこと。塗装業者から再度確認するように促されたのに、それを怠ったこと。  それらをすべて説明してお詫びしました。そして 「すべての責任は私にあります」 「改めて正しい色で塗装をやり直します」 そう言って何度も頭を下げました。 Fさんは少しうつむき加減になって聞いていて 「やってしまったことはしかたない」 そういって、あまり怒ったりしませんでした。 「まあ、コーヒーでも飲んでいって」 Fさんの優しい言葉に胸が詰まりました。 私は上司にも業者にも、あらゆるところに詫びました。 心配してくれた同僚にも詫びました。心の底から詫びました。 幸い塗装業者さんは、私が間違えた塗料はほかに回すからと、被害を最小限にする配慮をしてくれました。 ただ、もうすでにピンクに塗ってしまった壁に、またすぐ違う色を重ねて塗ると、どんな色に仕上がるかはわからないと念を押されました。  私はもう、問題なく仕上がることを祈るしかありませんでした。                                 私は自分の不注意で、あらゆる人に迷惑をかけました。  お施主のFさん、会社の仲間や上司、塗装業者をはじめとするさまざまな業者さん。 本当に いろんな人に迷惑をかけました。 ...

ドラマチックな色決めの話⓶

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 前回の続き 伊田屋で家を建てていただき、築10年を過ぎたFさんが外壁の塗装を検討されました。 何度もFさんとの打ち合わせを重ね、ようやく 「色が決まった」 と連絡をいただきました。 その晩私はFさんの自宅で最終確認をして、コーヒーまでごちそうになって帰りました。 Fさんが選ばれた色は 「薄いグレー」 です。最近近くに新しい家が建ち、その色をFさんは気に入っていらっしゃったのが決め手になりました。 塗装工事を始めるに当たり、まず足場の手配です。家をぐるりと足場で囲うのですが、このとき、カーポートや物置など、足場に邪魔になるものがあれば、あらかじめ移動させる必要があるので注意が必要です。 続いて塗装屋さんに連絡です。 選ばれた色の品番をメールにて送ります。そしてスケジュールの確認です。一番早くていつから工事にかかれるかを確認するのです。 さまざまな段取りを踏んで、工事の日程が決まりました。 私はFさんに日程を伝え、支障がないか確認をします。工期はおよそ10日ほどです。 FさんからはすぐOKをもらい、私は各業者さんに工事のスタートを依頼しました。 足場が組みあがり、いよいよ塗装業者さんが現場に入る朝を迎えました。その時です。 親しくしてくれている塗装業者さんから電話が入ったのです。 「平野さん、本当にこの色でいいの?ちょっと変わった色やけど」 私はさんざん迷われたFさんとの打ち合わせを思い出し、ちょっと面倒になっていました。 「いいんです、その色で。もうさんざん打合せして選んでもらいましたから」 塗装業者さんはいつも親切な人で、打合せの時もいろいろアドバイスをしてくれた人でした。塗装については経験もあって、 「こんな色はおかしい」  そう思ったのでしょう。 そのとき確認を怠った私は、あとでとんでもない後悔をすることになるのです。 その日の夕方の事でした。 Fさんからものすごい剣幕で電話がかかってきたのです。 「ちょっと平野さん!私の家、ラ〇ホテルになってまったがね!」 私は何のことかわかりませんでした。 とりあえずFさんが何を怒っていらっしゃるのか確かめるため、私は現場に向かいました。 すると・・・どうしたというのでしょう。 そこには 「ピンク色」 に塗られたFさんの家が夕焼けに照らされて建っていたのです。 見物に来た近所の人がFさんに向かって 「連れ込みでも始...

ドラマチックな色決めの話⓵

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  お施主様と住宅の打合せは多岐に渡りますが、多くの方が悩まれるポイントとして外壁の色があります。 ご夫婦で意見が分かれたり、途中で気が変わったり、この外壁の色選びにもさまざまなエピソードが隠れています。 今まさに建築中という方、またこれから新築を計画していこうと考えている方に、外壁の色の特徴や印象、メリットデメリットをお話していこうと思います。 1.白色・アイボリー系 印象としては、 「清潔感」「シンプル」「明るい」「飽きが来にくい」 メリットは、熱を吸収しにくいため、夏場の室内温度の上昇を抑えやすい。周囲と調和しやすいなどが挙げられます。 デメリットは、汚れが目立ちやすい。特に雨だれなどに注意が必要です。解決策として、クリーム系やアイボリー系を選ぶと、汚れが目立ちにくく、家全体に温かみも出ます。 2.グレー(灰色)系 印象はひと言で言って 「モダン」「落ち着いた」「洗練された」 メリットは、汚れが最も目立ちにくい。景観になじみやすい。また、流行に左右されにくいと言われています。 デメリットは、濃いグレーだと熱を吸収しやすい。薄いグレーだと白が汚れたように見えてしまうこと。中間色を選ぶと汚れも目立たず美観も維持されます。 3.ブラウン(茶色)系 印象は「 ナチュラル」「落ち着いた」「温かい」「重厚感」 メリットは、汚れが目立ちにくい。周辺の建物と調和しやすい。それと虫がよりにくい傾向があるそうですが、これは確かなデーターはありません。 デメリットは、濃い茶色だと熱を吸収しやすくなることが挙げられます。 ブラウンは濃淡で印象がおおきく変わります。木目調などとの相性も良いです。 4.ブラック(黒) 印象は 「高級感」「重厚感」「スタイリッシュ」 メリットは個性的で洗練された印象を与え、周囲と差別化できること デメリットはやはり熱を吸収しやすいこと。あと、砂埃などの白い汚れが目立ちやすいなどです。 5.ブルー(青)系・グリーン(緑)系 印象は 「さわやか」「おしゃれ」「個性的」 メリットは、個性が出しやすい。被りにくい。 デメリットは、周囲から浮いて見えてしまう可能性があること ざっとこんな感じでしょうか。 こうした外壁の色決めには、お客様の「どんな家にしたいか」を、しっかりとヒアリングして、ベストなご提案を心がけています。 しかし、最終的にはお施主様の 「好み...

相手の気持ちを察する話

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島根県にある 足立美術館 の庭園は、とあるアメリカの雑誌で 日本庭園ランキング(Shiosai Ranking)では、 初回の2003年 から「 連続日本一 」に選出されています 。 日本国内約1000箇所の名所・旧跡を対象にしたもので、「庭そのものの質の高さ」「建物との調和」「利用者への対応」などが総合的に判断されたもので、とくに細部まで行き届いた維持管理が評価されているそうです。 私が初めて 足立美術館 の庭園を見たときは、あまりの美しさに「ひゃー」と、変な声がでたほどです。 このお庭が一番よく見えるところに 足立美術館 の喫茶店があります。そこでコーヒーでも飲みながらゆっくりお庭を見ようかと思いましたら、そこのメニューを見てびっくりするお値段だったので、そこでも同じように「ひゃー」と、変な声が出ました。 だからその喫茶店には入っていません。 今思えば、ちょっと無理してでも入っておけばよかったかなと思っています。 現代において、一般的な住宅で日本庭園を造られるお施主様は、私の知るところめったにいらっしゃいません。 日本庭園は手入れが大変ですし、それなりのスペースも必要になります。それに今の若い方で日本庭園がお好きな方はかなり少数派だと思います。 私はなぜか昔から日本庭園が好きで、きれいなお庭を見ると心まできれいになるような気がします。 しかし、現在そうしたお庭は京都のお寺とかに行かないと見ることは難しいです。 先日とあるお寺に紅葉を見に行ったときの話です。そこには見事なもみじが鮮やかに色づいていました。 早速この美しいもみじをカメラに収めようとしたところ、ちょうど撮りたいもみじの前で2人のご婦人がおしゃべりをしています。 このまま私がシャッターを押すと、この2人のご婦人が映ってしまいます。 私は2人が移動してくれるのを辛抱強く待ちました。 しかしおしゃべりは終わりません。 私はついに実力行使に出ました。ゆっくり2人に近づくと 「オネエサン、ちょっとだけ横にずれてもらえませんか?もみじの写真が撮りたいので」 するとご婦人方のひとりが、 「あららごめんなさい!私らここは見飽きてるから」 そういってちょっと嫌味っぽく横にずれて下さいました。 後で聞くと、お2人は観光バスのバスガイドさんでした。 最近 SNS をやる人がふえているせいか、わたしが何かを撮ろうとすると、さ...

心残りな話

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コロナ禍以降、インバウンドでどこの観光地も裕福そうな外国人で溢れています。 しかし私がまだ20歳になったばかりの頃は、まだそんなに外国人を見ることは少なく、特に白人系の人を見る機会は、ほとんどなかったと思います。  当時私は大阪の郊外のとある街で、1人暮らしをしていました。 お金もなく、友達とは疎遠となり、私はいつも休日をもてあましていました。偶然その日も近くの商店街をあてもなくぶらぶら歩いていたのです。 そこに私に笑顔で近づいてくる外国人の2人組がいました。どちらも白人系で歳は若く、身長は2m近い大男でした。 「ちょっとお話イイデスカ?」 2人はたどたどしくもしっかりした敬語の日本語で私に話しかけてきました。 私は外国人と話すなんてなかなかないことですし、暇だったこともあり、少しだけ話を聞くことにしました。 後で知ったのは、その外国人たちはN君とW君といって、アメリカから来た、とある宗教の勧誘の人でした。 2人は私の住んでいた狭いアパートまで付いてきました。 私はアメリカ人だからと思いコーラーを出すと 「ボクタチ 水シカノメナイ・・」 規律の厳しい宗教だったようです。 それから彼らと不思議な交流が始まりました。宗教の勧誘は適当にはぐらかしていましたが、彼らはわりと頻繁に私の部屋を訪ねてきたのです。 ある日、私に一番親切だったN君が 「今度ボクタチノアパートオイデヨ!夕食ゴチソウスルヨ」 そういわれて、興味本位でのこのこ行った日のことは、いまでも鮮明に覚えています。 彼らはそこで共同生活をしていました。 そこには私に声をかけたN君とW君のほかに、初めて逢う知らない2人がいたのです。彼らも同じアメリカの白人でした。 夕食はスパゲッティのミートソースでした。ソースに至るまですべて彼らの手作りでした。         テーブルの上に5つのお皿が並べられました。 スプーンとフォークも並べられました。しかし、私の席のスパゲッティにはスプーンもフォークもなく、 「箸」 が置かれました。 私が日本人だからと思って、わざわざ 「箸」 を用意してくれたのでしょう。もちろん私に異論はありませんでした。 そして食事が始まりました。私は 「箸」 でスパゲッティをつかもうとしますが、ミートソースのせいでツルツル滑ってうまく口に運べません。 私は 「まあいいや、ここは日本風にいこう」 ...