感謝しらずの女の話

 12月になりますと、世間では「忘年会」のシーズンになります。

お酒をほとんど飲まない私でも、お誘いを受けたらできるだけ断らないようにしています。



一時期「コロナ禍」で寂しくなっていた繁華街や歓楽街も、人出が戻ってきているようです。


そんな12月ですが、私には遠い昔に経験した「些細な出来事」があり、それがずっと記憶から消えないでいます。


それがどのような出来事だったのか、お話したいと思います。



その時も12月の寒い夜でした。

私は職場の忘年会に参加しての帰り道、慣れないお酒で顔を火照らせて歩く「美少年」でありました。

「美少年」というのは大げさですが、そのころの私は、まだまだ世間を知らない、ほんの「子供」だったのです。





たくさんの人が酔っ払って歩く歓楽街の道で、ひとりで道端に座り込む若い女性がいるのが、目に入りました。



歳は二十歳前後に見えるその女性は、おしゃれをしていましたが、どこかあか抜けない雰囲気を持った真面目そうな女性でした。



こんな真面目そうな女性が、たったひとりで歓楽街の道端に座り込んでいるのは危険だと思いました。


「大丈夫ですか?」


私はしゃがんで彼女に言いました。


すると彼女はチラッと私を見ると、急にすがるような目つきになってこう言ったのです。


「今、最爆(さいばく)に気持ち悪いんです」


この「最爆(さいばく)」といういいまわしは、現代ではほとんど使われなくなりましたが、当時の若い人がよく使っていた言葉です。

「最悪」より上 「究極の最悪」という意味です。


きっと慣れないお酒を飲んで気持ち悪くなったのでしょう。その気持ちは私にもわかります。


それにしてもこんな若い女性が、歓楽街の道端に座り込んだままでいるのは、ちょっと見過ごしにはできませんでした。





「だれか迎えに来てくれるひとはいませんか?」


私は、親か兄弟、友達で、迎えに来てくれる人がいたら連絡してあげようと思ったのです。


「○〇ビルの地下に△△ってお店があって、そこにK君という男の人がいるから、呼んできてくれませんか」

その女性は、割とはっきりした口調で私に言いました。


「わたし、F子っていいます」


最爆に気持ち悪いと言ったその女性は、私ににそんな図々しいお願いをしてきました。


「○〇ビルってどこですか?」


私は知らない場所の知らないお店に行って、知らない男の人を、ここに連れてこなくてはいけなくなりました。


私は路地を歩き、曲がり角をまがって探し回り、彼女が言ってた「○〇ビル」をようやく見つけたのです。


地下にあるという「△△」というお店は、ドアが閉まっていても、激しい音楽が外までズンズン響いてくるようなお店でした。







勇気を出してドアを開けると、激しい音楽が10倍くらいの音量になって、私にぶつかってきました。


中は暗く、たばこの煙でもうもうとしています。

スポットライトの帯が、いく筋も流れています。


蝶ネクタイをした店員さんが、私に近づいてきてなにか言ってます。

しかし、音楽がうるさくて何を言ってるかよくわかりません。


私はけっこうな大声を出して


「ここにK君という男の人はいますか?」


そう尋ねました。


「何?K君?  ちょっと待ってや」


蝶ネクタイは人混みのなかに入っていき、ひとりの背の高いイケメン男性を私のところに連れてきました。


「K君ですか?」

K君はうなずきました。


「F子って女の子が、道端で呼んでますよ」


するとそのK君は、


「チッ」と舌打ちをしたのです。


大音量の音楽が流れるそのお店でも、K君の舌打ちは聞こえたように感じました。


それからK君は、私と一緒にお店を出ました。


私はK君を、F子さんが座り込んでいる場所まで連れて行ったのです。


彼女は相変わらず道端に座り込んでいました。


「あそこです」


私はK君にF子さんが座っている場所を指さしました。


K君が近づいて行って、F子さんの肩にふれたその時です。



「Kく~ん」




F子さんは急に飛びつくように立ち上がって、K君の体にしがみつきました。




それはまるで、ひさしぶりにエサをもらった子犬のようでした。


そして二人はもつれあうようにして、夜のネオンに消えていきました。


私はひとり残されました。







えっと 「ありがとう」っていわれたかな?

「ほんと助かりました」っていわれたかな?


私は何も言われませんでした。一瞥もしないで二人は去りました。


F子さんもK君も、生きていれば60前後になっているでしょう。


もし、生きていたら、私はこのときの惨めな気持ちは、今もわすれてはいないこと。そしてこの出来事が、私の女性に対する見方に大きな影響を与えたこと。


つまりは「トラウマ」になってしまったこと。


それらをねちねちと執念深く言ってやりたいと、今でも思っているのです。





12月が来るたびに、私の中でこの情けない思い出が、今も頭の隅をかすめるのです。




コメント

匿名 さんのコメント…
ドンマイ
のっちくん さんのコメント…
いやはやとんでも無いバカップルですね。
筆者がKくんを迎えに行った時、なぜKくんは「舌打ち」をしたのでしょう。
Kくんのお相手は、別に居たということでしょうか。
コメントありがとうございます。
これに似たような経験は、私の場合たくさんあります。
コメントありがとうございます。
Kくんが舌打ちしたのは、せっかく追っ払った女が、帰らずにいたからでしょうね。
ひどい男だと思いますが、今思えば、私も人が良すぎるなと思います。

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